黒毛和種250頭を飼う第一人者

[肥育農家]

野神昭三さん

(下伊那郡高森町)


〜 米を適度に与えるとおいしい肉になる 〜

 JAみなみ信州の肉牛部会長を務める野神さんは2012年当時、和牛、交雑種を合わせて約300頭を飼育。その後、和牛に限定して約250頭を飼い続けている南信州地域最大級の肥育農家です。JAなどからの期待に応えて和牛の共進会(品評会)には常に何頭もの優秀な牛を出品。入賞を果たし続け、長らく地域の畜産業をけん引してきました。2016年5月には京都食肉市場が最高品質の牛肉として格付けする「特選牛」認定を、第1号という形で獲得。そんな百戦錬磨の野神さんの飼育法の特徴は牛のエサに米を混ぜることだそうです。
 「白米か、ひき割りした玄米をエサ全体の3~4%分だけ混ぜて与える。そうすると牛がエサを消化するのに時間がかかるようになるんだが、これは胃の中で吸収がゆっくり進むことにつながり、牛の体にとって良いことです。私はこのやり方をずっと続けてきましたが、いつ頃からかJA指定の配合飼料にも玄米がいくらか含まれるようになってきた。玄米の配合分が何%なのかエサの説明書に明記されていないので、以前とは米の混ぜ具合を少し変えて、最適な分量になるようにしています」
 与える米は飼料専用ではなく、野神さんが自分の田んぼで育てて収穫した、家庭で食べるものと同じコシヒカリなのだそう。少しもったいないような気もします。
 「農地は1町歩(約1万㎡)あるし、田んぼを荒廃地にしてはそのほうがもったいない。たくさん米が採れるから牛にも与えているだけなんだ。それに経験上、エサに米を混ぜることで肉がおいしくなることがわかっているからね。うちでは以前、ここの農地内で養鯉業をしていたこともあったんだが、米を与えると鯉がよく食べることも知っていた。それを参考にした部分もあるね」
 京都での「特選牛」認定などもあり、大ベテランの野神さんに寄せられる期待はまだまだ大きそうです。
 「育てた牛がたまたま京都市場で第1号の認定になったけど、うちの牧場はよそに比べて規模が大きいし、南信州全体の生産方針を代表しているわけでもないんだよ。農家によっては良い血統の子牛だけに肥育頭数を絞り込み、共進会での入賞を励みに畜産を続けるということもあると思うが、一番大切なのは、せっかく長いこと盛んなこの地域の畜産が末永く続いていくことなんだ」
 高森農協(現JAみなみ信州高森支所)に勤務していた昭和の時代から飯田下伊那地域全体の畜産を見つめ続けてきた野神さん。第一人者の責任感が、目先の評価に一喜一憂することのない深い愛情でこの地域の畜産を支えています。

長年の勘をはたらかせながら適量の自家製コシヒカリを与えている

粗飼料としてたっぷり与える稲ワラも自家製米の副産物

(2016年11月に取材)

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